熟年離婚(男性の側から)について

熟年離婚した場合(婚姻期間が長い場合)に、相手方にどのように財産分与をしなければならないのか、年金はどうなるのか、慰謝料は発生するのか、別居後、離婚するまでの期間の婚姻費用についてお話ししたいと思います。

1 財産分与

原則として、相手方が専業主婦であっても、婚姻財産の2分の1を分与することになります。

婚姻財産として財産分与の対象となるものは、どちらの名義になっているかを問わず、預金、保険(解約返戻金がある場合)、株式・投資信託、不動産(自宅、投資物件)、車(価値のある場合)、ゴルフ会員権など、婚姻中に形成された財産です。婚姻前からの財産や相続した財産は、財産分与の対象となりません。婚姻期間中に会社を設立した場合、当該株式も財産分与の対象となります。また、まだ受け取っていない退職金も財産分与の対象となります(もっとも、退職金を受け取ることができる会社に結婚前から入社していたという場合は、財産分与の対象となる退職金の範囲は、退職金全額ではなく、婚姻から別居までの期間に相当する退職金となります)。

相手方名義の財産を把握していない場合、まず預金の取引履歴を明らかにさせて、保険料の引落や証券会社との取引などの記載から相手方の婚姻財産を探していくことになります。

2 年金

年金分割の対象となるのは、厚生年金、共済年金です。国民年金は年金分割の対象となりません。

次に、財産分与の場合、別居時が基準となりますが、年金分割の対象は別居時までのものではなく、離婚時までのものとなります。平成20年3月よりも前に婚姻していた場合(合意分割の場合)、年金分割の割合は当事者間の合意で決めることができますが、争われると(審判や離婚裁判では)2分の1となります。なお、年金分割は、婚姻期間中に収めた保険料の額に対応する年金を当事者間で分割されるものです。婚姻期間中を対象として、厚生年金の支給額の計算のもととなる報酬額の記録が分割されることにより、婚姻期間中の保険料納付額に対応する厚生年金を分割して、それぞれ自分の年金とすることができます。

3 慰謝料

慰謝料は民法709条の不法行為の成立を前提にしますので、婚姻期間中に不貞行為を行った、暴力を振るったなど(モラルハラスメントも含まれます)の事情がない限り、慰謝料は発生しません。モラルハラスメントは言葉や態度による嫌がらせですが、慰謝料が発生するかどうかは、言動がどの程度の酷い言葉・行動であったのか、社会通念に照らして看過できないものかどうか、その頻度などにより、判断されることになります。

4 別居後、離婚までの婚姻費用

別居後、離婚が成立するまでの間、(年金収入も含めて)収入の多い方が収入の少ない方に対して、婚姻費用(生活費)を支払うこととなります。いくら支払うことになるかは、双方の合意で自由に決めることができますが、合意ができない場合には、双方の収入により決まります。

収入に年金を含む場合、年金については、給与所得などの場合と異なって、職業費を考慮しなくてよいため、年金額そのものを婚姻費用を計算する際の収入として計算するのではなく、職業費を要しないことを考慮して計算されることになる点に注意が必要です(実際に受け取った年金額よりも多い金額の前提で婚姻費用が決められることになります)。